2009-01-01から1年間の記事一覧

『すごい本屋』に始まって

去年の年末、『すごい本屋』(井原万見子 朝日新聞出版)を読んで、感銘を受けたことを覚えている。井原さんの営むイハラハートショップは和歌山の、日高郡日高川町という山あいにある本屋さんだという。 都会から遠い地ながら、福音館のエスキース展、今話題…

街の草さん

ふらりと寄って、普通これだけ揃うだろうか。驚いた。おまけに、道を聞いて伺ったとはいえ、飛び込みの面識もない客なのに、あんまりないという貴重な雑誌を申し訳ないほどの価格で分けていただいた。武庫川には初めて出掛けたけれど、駅から坂に沿って、心…

同姓同名

過日、龜鳴屋さんと話をしていたら、自分の口から「榊原淳子」という名前が出てきてその久しぶりな響きに驚いた。現在、同姓同名のお天気キャスターがいるみたいだが、当たり前だがその人ではなく、80年代に活躍した谷山浩子にそっくりと評判だった詩人のこ…

吹雪

四方から 海からの溜息に包まれ 湯の中から見詰めていた 絶えず呼吸する こころなしか朱が混じる 港の灯 女は 薄い肩だったろう 男は何を 着せかけてやったか 前髪が絡みあって 二人の前を 昏くした 降り積もる苦いひとひら 胸の扉は潰された そのかみの情熱…

食パンは修行の味がする サンドイッチみたいなお前に俺の心が解るかと 心外なものが 空き瓶から出てきた横に浮かぶ雪を見ていると靴下を持って タオルを首に載せて 螺旋の向こうに 歯ブラシのおんなが映るその目は 円い魚のようで 愁いがあるのか むしろ嬉し…

それは幻ではなく

『ボン書店の幻』(内堀弘 ちくま 文庫)をたびたび書店で手にとった記憶はあった。 しかし、鳥羽茂という出版人に関する、この新鮮な傷跡のような生涯をたどる労作を、なぜ読み通せずにいたのか。読了後、興奮醒めやらず人に電話したところ、手に取るどころ…

六道談義

豚足が 噛みきれなくて 返事をしないでいると かっぽうぎの主は おでんの玉子を 盛大に剥いた テレビは毎晩点いていて このうちは川中美幸ばかりかかると タクシーのおじさんが だいたい そう言う 地獄はあるんじゃなくて 湧いてくるよ 人の数だけ いいもわ…

同級生が!

週末、金沢に行くので、そういえば金沢の大学に行った同級生がいたなぁと、何の気なしに検索をかけて大驚愕。彼女は、工業デザイナーになったとは聞いていたが、その後、2001年頃に大阪でシナリオを学び、今や『オルトロスの犬』の脚本を書いている大活躍の…

彩雲

長閑な午を過ぎて 家路への眠りにつくはずの老いた目を 西の空が誘いこむまた生き永らへて 流れを越え 濃州に身を委ねる 山で身を灼かれる日も この橋の頂きで 見下ろすのだろうか 光をもとめ 身をよじらせていたら いつしか蝙蝠となった 迷うために 翼を差…

京都へ

わー9時発の予定が、こんな時間に。瀕死のマーチを置いて借りたのは、あれ!おかしい。この私の手に負えなそうな車で京都へ行けって?しかし繁忙期、車は出払っており、換えられず。それでは今から出発します。調節が分からず、大音響で「ももいろのハム食…

善行堂から恵文社一乗寺店へ

今日は京都東で降りて、疎水からずっと北にあがったら銀閣寺口で、あやうく交差点を通り抜けるところだった。前回、知恩寺の古本まつりの時は、京都南から降りて、町を延々回ってたから友人をさぞ不安に陥れたことだろう。今頃すまなく思う。前回と同じく、…

復航

しるしはなかったが 寝顔の真下の 太陽のあたる陸地と 黒い海を眺めていた ひとりの 背中をおもう 諭されても 足が向かない家路 いきつもどりつ 知らない酒も飲めないから遠く遠く 重なったかげを見ながら 文庫を一冊 置き忘れたことに気を取られて 白い陸地…

冬至

きまりごとのみ 後生大事と 抱えていたければ ずっと一人で 生きていけばよいてのひらには様々の温度があり 重ねるたびに 虹彩を じっと眺める そのあたたかさ その不思議に たまに気づいては あゆみを止める行く手を教えていてくれた凍てついた木立も 太陽…

lesson

なかなかあがらなかった バイエルの表紙 手提げを捨てた 記憶もないが 弱毒性が繰り返されると来し方行く末の 別種かと目を凝らす 絶命にも至るような 起源を持ちながら まどろむかのような蔓延は根の無い未来を暗示する 二階カラ曲ガラヌ足底ヲノロノロ運ビ…

菜園と『ひなた弁当』

ブログは、はてなが初めてだと思っていたが、続かなかっただけで、三年前、一年だけグリーで日記を書いていた。不調の携帯をあれこれいじっていたら、塩漬けになったブックマークが残っていて、久しぶりにアクセスした。日記が書かれた頃は七年働いた小規模…

背中の記憶

『背中の記憶』(長島有里枝 講談社)読了。長島さんの名前は、女性誌によく登場される人気写真家だと認識していたから、この回想集に一枚も写真がないことが意外だった。プロフィールにも、作者による文章による作品集は、この本が初めてと紹介してあり、数…

蕭々だより一夜を過ごすと 波音のような風が起こり枕辺によせてきた 天井に 高く低く響いた 祖父の音 耳殻から まだ見ぬ海に潜ろうとした幼き日 鉄塔が いきなりそびえ立つ この部屋から 故郷の山間まで かたちのない海の名残は肩を押さえつけ 窓をたたく さ…

遠山

気がつかずにいた 甘い草は 用意されたものだということに 外にいて 雹にあたり 喉の渇きを凌いではきたが思うほどに 一人で生きているわけじゃない 三白眼に映る 薄紫の山は 野生をたたえて 座し 二の腕に層雲を隠し持つ 唇の血の味は そこから 流れてきた…

島地勝彦二冊

耐乏期には、せっせと立ち読みをして、給料がでたら一気に買い集める。 開高健に、週刊プレイボーイの人生相談をうんと言わせるため、押し倒して口を塞いで誠意を見せたというエピソードに驚き、島地勝彦さんの新書と別の棚にあった『甘い生活』(講談社)を…

は!間違えたと思ったが

職場の近くの本屋に寄って、グレゴリ青山さんの和歌山田舎暮らしの新刊、手芸本棚の画期的な手芸店の紹介本などを眺め、本屋を後にした。 家に帰り着いて、さっき買ったものをと取りだしたら、出てきたのは『大金持ちも驚いた 105円という大金 救われたロ…

桟橋の音 せばめられた家族の距離を地図に落として 遠くから向き合おうとしている 色褪せた一組暴風で扉は開かない今日は刺身が出ず煮魚だよ蛤は縮んでいる 滋味の出ようのない 新鮮すぎる瞬間を待ってフェリーが出る目が開けられない圧力に躰のありかを失っ…

原稿を送る

今週最後、身の回りがバタバタしたのでやっとこさっとこ、これから亀鳴屋さんに郵送です。手製の詩集の詩篇を含む、39篇、400字詰で73枚。こんな奇跡のようなことは人生に一回きりの気がして、ちょっと詰めこみすぎかもしれませんが。改稿したのもあり、ブロ…

人は

仙波龍英氏が亡くなっていたということを、詩人の方の日記で知った。もう九年も前だそうだ。今日まで知らなかったことに驚く。 昔、紫陽社から葉書をいただいた時に、仙波さんの第一歌集の広告が葉書に刷りこまれていた。『わたしは可愛い三月兎』という題名…

残響

抱きあうことしか 頭になかったから 膝を払って 何も残っていない 形さえつかめば どうでもよかった 捨て台詞に近い それでも まっすぐな 視線が 何かをも 弱らせてしまったのだろうか ハーフマラソンのように波は繰り返しやってきて しらじらと泡になって消…

近江鉄道1999

駅まで 軒がひくいから 背の高さが気になって 肩が並べられなかった 傘も持たない うかつさも あの日ばかりは 気にならなかった けれど とめどもない こどものような 熱情を 一度も とがめられなかったが 一歩ずつ 距離は 空気をはらんで それが 日常になっ…

つたい歩いて

錆びついた鍵穴に 途方にくれている やけにはっきり 雨脚が見えている もう夜だというのにつまも 子ももたないことは 今となっては幸いと 知るが 人と手をつなげば幸福なことだと これもまた 記すのだろう 胎内からいでて 臍の緒をふりすてた時から何も要ら…

訃報 森繁久弥

森繁久弥さんが亡くなられたそうだ。去年までラジオの日曜名作座を聴いていたことから、ブックオフでこの『ふと目の前に』(東京新聞出版局)を偶然手に入れていた。 巻頭に詩が書かれている 人は何もわからなく生まれ 人は何もわからなく生き 人は何かわか…

七日発売の婦人公論

「鴉」という詩が選外佳作になっていた。『マルク』から一年経ってないから、そんなものだと思うが、以前は嬉しかったのに、今は複雑な気持ちだ。この脳天気者にも何か自覚が生まれてきたか。三ヶ月前に投稿したことだから、どの詩を投稿したことかも忘れて…

リライト?

なかなかパソコンのあるところに座れないまま、日ばかり経ってしまうので、今日は原稿用紙を取り出して、携帯の画面メモを眺めながら詩集のための原稿書きを開始した。 今時手書きなんて、編集していただく先方に申し訳ない上に、字のまずさも中学生時代より…

親の心分からずの記

久しぶりに両親が岐阜市に顔をみせた。富有柿の産地で生まれた母は、このシーズンになると、いてもたってもおられず、柿を箱買いにやって来る。「買ったって人にやってしまうだけだ」と父は渋い顔。 この間出かけた時も、道ばたで買った柿を食べ過ぎて、母は…