2009-11-01から1ヶ月間の記事一覧

背中の記憶

『背中の記憶』(長島有里枝 講談社)読了。長島さんの名前は、女性誌によく登場される人気写真家だと認識していたから、この回想集に一枚も写真がないことが意外だった。プロフィールにも、作者による文章による作品集は、この本が初めてと紹介してあり、数…

蕭々だより一夜を過ごすと 波音のような風が起こり枕辺によせてきた 天井に 高く低く響いた 祖父の音 耳殻から まだ見ぬ海に潜ろうとした幼き日 鉄塔が いきなりそびえ立つ この部屋から 故郷の山間まで かたちのない海の名残は肩を押さえつけ 窓をたたく さ…

遠山

気がつかずにいた 甘い草は 用意されたものだということに 外にいて 雹にあたり 喉の渇きを凌いではきたが思うほどに 一人で生きているわけじゃない 三白眼に映る 薄紫の山は 野生をたたえて 座し 二の腕に層雲を隠し持つ 唇の血の味は そこから 流れてきた…

島地勝彦二冊

耐乏期には、せっせと立ち読みをして、給料がでたら一気に買い集める。 開高健に、週刊プレイボーイの人生相談をうんと言わせるため、押し倒して口を塞いで誠意を見せたというエピソードに驚き、島地勝彦さんの新書と別の棚にあった『甘い生活』(講談社)を…

は!間違えたと思ったが

職場の近くの本屋に寄って、グレゴリ青山さんの和歌山田舎暮らしの新刊、手芸本棚の画期的な手芸店の紹介本などを眺め、本屋を後にした。 家に帰り着いて、さっき買ったものをと取りだしたら、出てきたのは『大金持ちも驚いた 105円という大金 救われたロ…

桟橋の音 せばめられた家族の距離を地図に落として 遠くから向き合おうとしている 色褪せた一組暴風で扉は開かない今日は刺身が出ず煮魚だよ蛤は縮んでいる 滋味の出ようのない 新鮮すぎる瞬間を待ってフェリーが出る目が開けられない圧力に躰のありかを失っ…

原稿を送る

今週最後、身の回りがバタバタしたのでやっとこさっとこ、これから亀鳴屋さんに郵送です。手製の詩集の詩篇を含む、39篇、400字詰で73枚。こんな奇跡のようなことは人生に一回きりの気がして、ちょっと詰めこみすぎかもしれませんが。改稿したのもあり、ブロ…

人は

仙波龍英氏が亡くなっていたということを、詩人の方の日記で知った。もう九年も前だそうだ。今日まで知らなかったことに驚く。 昔、紫陽社から葉書をいただいた時に、仙波さんの第一歌集の広告が葉書に刷りこまれていた。『わたしは可愛い三月兎』という題名…

残響

抱きあうことしか 頭になかったから 膝を払って 何も残っていない 形さえつかめば どうでもよかった 捨て台詞に近い それでも まっすぐな 視線が 何かをも 弱らせてしまったのだろうか ハーフマラソンのように波は繰り返しやってきて しらじらと泡になって消…

近江鉄道1999

駅まで 軒がひくいから 背の高さが気になって 肩が並べられなかった 傘も持たない うかつさも あの日ばかりは 気にならなかった けれど とめどもない こどものような 熱情を 一度も とがめられなかったが 一歩ずつ 距離は 空気をはらんで それが 日常になっ…

つたい歩いて

錆びついた鍵穴に 途方にくれている やけにはっきり 雨脚が見えている もう夜だというのにつまも 子ももたないことは 今となっては幸いと 知るが 人と手をつなげば幸福なことだと これもまた 記すのだろう 胎内からいでて 臍の緒をふりすてた時から何も要ら…

訃報 森繁久弥

森繁久弥さんが亡くなられたそうだ。去年までラジオの日曜名作座を聴いていたことから、ブックオフでこの『ふと目の前に』(東京新聞出版局)を偶然手に入れていた。 巻頭に詩が書かれている 人は何もわからなく生まれ 人は何もわからなく生き 人は何かわか…

七日発売の婦人公論

「鴉」という詩が選外佳作になっていた。『マルク』から一年経ってないから、そんなものだと思うが、以前は嬉しかったのに、今は複雑な気持ちだ。この脳天気者にも何か自覚が生まれてきたか。三ヶ月前に投稿したことだから、どの詩を投稿したことかも忘れて…

リライト?

なかなかパソコンのあるところに座れないまま、日ばかり経ってしまうので、今日は原稿用紙を取り出して、携帯の画面メモを眺めながら詩集のための原稿書きを開始した。 今時手書きなんて、編集していただく先方に申し訳ない上に、字のまずさも中学生時代より…

親の心分からずの記

久しぶりに両親が岐阜市に顔をみせた。富有柿の産地で生まれた母は、このシーズンになると、いてもたってもおられず、柿を箱買いにやって来る。「買ったって人にやってしまうだけだ」と父は渋い顔。 この間出かけた時も、道ばたで買った柿を食べ過ぎて、母は…

本は大事と思いたい

最近はやりの、必要なものしか買わないとか借りればいいとか、無駄なものを排除する思想が困るのは、後に残る文化を考えていないところだ。 私の住む岐阜市は昨年、中心地の路面店の本屋が二軒なくなった。出身地の郡上市などは、昔ながらの本屋は品揃えが薄…

不滅の光

ようよう成長して ささやかな敷居をまたげは世の人々が 間諜であり黒幕であり ああ 生き難しもののふの道思いが及ぶと 黙ってはおられない さかしらな異形のわたくし 御前会議に勝ちをとっても 鉄扇に倒れ とんだ流離譚の待つ 朝は辛い体質だったが 忍びの日…

伊藤茂次詩集 ないしょ

『伊藤茂次詩集 ないしょ』より 休日目が覚めたら すべてを忘れていた 毎日のくだらぬ 私のつぶやき 私がわたしに はずかしいおこないの連続を 鈍感な冬の日曜日 ストーブの火が ゆるやかに 燃えている 女房も 今日は苦情の言葉を 忘れている 仕方のない生活…

美濃市さんぽ

昨日、書店で『ネット古本屋になろう!』(河野真 青弓社)という本を見つけ、たまたま開いたページを見ると、なんだか馴染みのある文章。遡ってページを繰ると同じ市におられる徒然舎さんの開店体験記だった。 一読して分かる文を書くということは、なかな…

梁塵秘抄

歳月は ここまで きてしまった たまに行き交う 淡い便りも 役に立たぬまま他人に指摘されるほど 肩のさがり ひっこんだ歯の位置も相似形 不惑をむかえれば 分け目もその日から白くなるし 身近なものを愛さない 母をもったがあなたの不幸か 家計の拙い家系の…

十月三十一日記

金曜日は仕事を無理矢理切り上げ、詩集づくりに取りかかった。途中、念のいったことに詩集ができあがった夢を見ながら寝てしまい、三時に起きて20冊作りあげる。毎日こうして作ればよかったと小学生並の後悔をしながら、七時にレンタカーを借りて友人を乗…

忘れないように

今朝は出勤。昨日のことを考えていたら、いつもの仏壇屋の前、信号待ちで目と鼻から泪が。たとえ、それが文学ではないとしても、おまえはどうしても書きたいことがあるんだとルームミラーの自分を見て思った。それを掘り起こしていただいた方々に感謝を捧げ…