梁塵秘抄

歳月は
ここまで
きてしまった
たまに行き交う
淡い便りも
役に立たぬまま

他人に指摘されるほど
肩のさがり
ひっこんだ歯の位置も相似形
不惑をむかえれば
分け目もその日から白くなるし


身近なものを愛さない
母をもったがあなたの不幸か
家計の拙い家系の不幸か
人の真似をして
向上心のないものは馬鹿だなんて
あれは言わないほうがよかった
お互い身体が丈夫だから
とんでもない藁屑を
知らずして
背負っているのか
誰かの寝床のために
強力じゃあるまいし


降って湧いたはらからは
この10年を
雪塊のように扱うばかり
介護崩壊の山を
じりじり責めては
巣穴に何かしら
持って帰りたがる
家族を養うということは
他人の肺腑までも欲しいということなんだけど
あそこには小さな畠しか
もうないというのに


何も要らないのなら
もう山を背に住まなくていいだろう
お茶漬けを食べて
絵を描いて
書を書いて
草紙でも
広げて
わらべでも見て暮らすのはどうだろうか


通話の終わった
この明け方も
軽トラの音は響くだろう
誰かの百円のために