2010-06-01から1ヶ月間の記事一覧

君に問う

知っていながら 人を諌められないのは なぜなのだろうと 後の悔いから思えば 奮い立って言うべき時だっ たのだと 夜半の声が言う もうこれよりはと 自らを裁いた 見知らぬ君よ 人とぶつからぬ その流儀も 命あってこそだったのに 人事も 係累も 互いに責めあ…

或る一冊に

情熱とは 思いつきに宿るものではない 曾て、手にした一冊 井上孝治の沖縄 その樹の写真は 道端に疲れて立つ 29歳の自画像と 二重写しになる 天職とは 降ってくるものではない 無意識が検分した かけらが揃ったらはじまる 不明だった 若き日は 求めればいい…

生死

足許もおぼつかず人を殺め 心を不意に潰し それはほんとうに 復讐なのか 欲しかった安寧を 手にしたのではないのか 詩の力など何もないがきょうの日に言っておこう くたくたなのに 荷を負いつづけ 糧をわけあう仲間もおらず 語れば馘がよぎり 怨みの雨に溺死…

梅仕事

ぷつりと採れば 銀の産毛をたてた肌に 被さった緑から 落ちては転がる しずく しずく 竹串で蔕をつつきながら 何の歳月を問えば いいのやら 今のところは粗塩 で揉んで 太陽の日まで 棚上げの持ち越し 紫蘇が十の指に 絡めた色素は 古いくちづけの痕のようだ…

身体は忘れない

金曜日、健康診断に出掛けた。久しぶりに訪れたその病院は、改築して廊下に一面窓がつけられ、売店にベーカリーも併設するなど、すっかり変わってしまっていた。 数年前の同じ季節、冬から持ち越していた腰椎ヘルニアの痛みでとうとう歩けなくなり、救急車で…

A列車にて 同じ山を目指しながら べつべつのものを 手に持って揺られている まだ話はできないでいたけれど 燕の歌が流れると 眉間の皺は解き放たれる 小さな箱を覗きこみ 用意された 情熱のひとつひとつに 出会うごとに たぎる新緑が増していく 瞼に焼きつ…

道行

不安を楽器 に鳴らし終え たまたま 聞きいるひとを得たと 月琴を胸に ねむるのも忘れるあのものを 呼びとめたりしないこと なさけあるのなら たとえ 肩は痛み 足は曲がらず 横画面の夕景に 座らざるを得なくとも 紙のように散らされた 古びたイコンは 首から…

木霊

一日を終えて 寄り添ってくれる言葉でないのなら 忘れてしまっていいのだろう 今日のなぐさめは また開かれなかった 熱を帯びた時が 肩に手をかけていたが知らずして ふらりと降り いつのはずみか 麦の畑 空豆の畦 夕べに並べて眺めている 見つけたものは永…