梅仕事



ぷつりと採れば
銀の産毛をたてた肌に
被さった緑から
落ちては転がる
しずく しずく



竹串で蔕をつつきながら
何の歳月を問えば
いいのやら
今のところは粗塩
で揉んで
太陽の日まで
棚上げの持ち越し



紫蘇が十の指に
絡めた色素は
古いくちづけの痕のようだ
電話ボックスを白くしながら
丸ごと伝えたがった夜があり
底に沈む澱を
壜に透かしてみる



梅の肌は
年を経て口に優しいが
その味に託された
屈託と懐旧
なにくわぬ顔で
蓋つきの鉢にしまわれているが
腐らないということは
じつは
寂しいこと
なのかもしれず



金子彰子(かねこしょうこ)詩集『二月十四日』龜鳴屋(かめなくや)刊は以下のURLからご覧になれます
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