或る一冊に



情熱とは
思いつきに宿るものではない



曾て、手にした一冊
井上孝治の沖縄
その樹の写真は
道端に疲れて立つ
29歳の自画像と
二重写しになる



天職とは
降ってくるものではない
無意識が検分した
かけらが揃ったらはじまる
不明だった
若き日は
求めればいいと
やみくもに熱をいれ
ゆうべには
萎んでいた



そしてまた
人を大刀洗に訪ね夏草の
鉄道で
携えていた
その本に
また三度出会う
それは
背を押される
ために



希望をならべている
だけでは
自分が決めた規から
出ることはできない
ふり仰いでまたもがき



それだけであるが
それだけをも超えられる
ことが
いかに稀有なことか

そして人は
時に受け取るのだという
神の睫毛のまたたきを
その首筋に