十月三十一日記

金曜日は仕事を無理矢理切り上げ、詩集づくりに取りかかった。途中、念のいったことに詩集ができあがった夢を見ながら寝てしまい、三時に起きて20冊作りあげる。毎日こうして作ればよかったと小学生並の後悔をしながら、七時にレンタカーを借りて友人を乗せ、一路京都へ。


多賀インターのロッテリアで睡魔をなだめていると日記に善行堂さんから「いい話を聞かせたい」とコメントが。急に元気づいて十時には京都到着。


知恩寺は、写真を撮ると真っ白になってしまうくらいに、陽光にあふれ、黒づくめの私は背中を灼かれてあっさり進々堂へ逃げ込んだ。奥のテラスを見るとなんと善行さんが!「居るの知ってたの?」と聞かれたが知らなかったですよ。しかし今年はいろいろな偶然に恵まれている。これから開店されると聞いて、二時過ぎに伺うことをお知らせした。


青空古本市の名前そのままの蒼天の下、文庫の棚を眺めていく。最近、おやつ新報さんのブログで思い出として書き込んだ干刈あがたさんの『黄色い髪』(朝日新聞社)を見つけた。これは、朝日新聞の連載小説で毎朝欠かさず読んだ記憶がある。まだ引きこもりなどという言葉がなかった頃に、とじこもってしまった少女とその周囲を事件という眼差しではなく、引きこもることも人の必然として書いてあったように記憶している。再読して確かめよう。

「魂に触れるアジア」(松井やより 朝日新聞社)は12年前に盲学校に勤めていた時に、教科書で一部を読んだことがあるが、小児労働、買春の問題、搾取の実態がさまざまな取材をもとに書かれている。教科書用に書かれた文より、はるかに重い内容だ。

『世界教養全集別巻1 日本随筆・随想集』平凡社

『日本詩人全集33、34 昭和詩集(一)、(二)』新潮社

『改訂 フランス料理 理論と実際』(辻静雄 光生館)

三冊目は海老沢泰久さんの著書を読んで探していたが、まさか今、七百円で出会うとは!


二時になり、善行堂へ。 詩集にサインをいれるというのに、持ってきた筈の筆記用具が見つからず、善行さんのお友達のMさんにお借りした。ありがとうございました。「善光堂お参り記念」と書いてしまい、早速、失礼をやらかす。それから善行先生が見ていて下さったので大丈夫でしたが、なんとその後間違いの一冊は誰かの手に。そのどなたかすいませんね。

その後、近くの紅茶と焼き菓子のお店(本もいろいろ置いてあった)でお茶を飲んだ後、善行さんの可憐な奥様にご挨拶し、亀鳴屋 勝井さんとお会いする。勝井さんは井坂洋子さんのファンで以前『言葉はホウキ星』をご覧になり、詩を覚えていただいていたとか。 リアルタイムで読んだと言う方に初めてお会いした気がします。
ちょうど数日前から北陸の方に詩集をお預けする算段を考えていたところで、亀鳴屋さんも知っている方だったので一冊お預けした。思えば、その珠洲の方のホームページにグレゴリ青山さん装画の文学解説集が紹介されており、「これはどうやって入手するのやら」と欲しい欲を刺激されていたが、亀鳴屋さんの本に一週間前から出会っていたことになる。
あんな素敵な本を出す亀鳴屋さんに詩集を出さないですかと言われて、「きゃー!」と飛び上がって喜ぶべきだと今にして思うのだが、同行されていた外村彰さんが、亀鳴屋さんから出された伊藤茂次さんの詩集に影響されてか(この詩集は読んだものに不思議な感銘を与える。川本三郎さんの跋文に胸を衝かれた)「私のような無名の者の詩を出して迷惑じゃないか」とまた悪遠慮の虫にとりつかれ、善行さんと勝井さんがあれこれ気を使って話を進めてくださったから良かったものの心配ばかり並べ立てて失礼でした。今は時間がないのが、本当にどうにもならず、八時から四時までは電話も取れず、八時までは出て行かれない。再来月からはより慌ただしくなるので、こんな連絡つかなくてどうだろうと考えておりました。しかし詩集は出したいのです。なんとか年内には詩を書きあげますし、詩集の半分は買い取らせていただきますから、勝井さん、奥様、よろしくお願いします。(負担費用なしで無期限で待つとおっしゃったのにまた虫に取りつかれている模様)

持っていった私の高一の頃の詩が載った「鳩よ!」は、岡崎武志さんのマンガが載っていて、皆さん懐かしがっておられた。これを岡崎さんに、お見せしたかったけれど、お目にかかれなかった。私は岡崎さんにきちんとお会いしたことがなくて、それなのにいろいろお願いをしており、今回改めてお礼を言いたかったのだが、残念だった。

その後、ガケ書房に行って、欲しい本ばかりざくざくあるのに驚き、山下店長さんが出ていく姿を見ながら、声がかけられず。中学生並。そして大銀でオムライスを食べるが、友達の焼き魚定食がやけにおいしそうだったなぁ。そして、はんのきへ寄る頃には日はとっぷり暮れていた。 古田さんが一人で店番をしておられ、「これは寒いんじゃないか」「土間は冷えるから心配だ」とここでは過度におばさんになり、二人で大きなお世話を言ったけれど、屋根裏の吹き抜けが冬は寒そうだ。買いたい本がいっぱいなところだけに店主さん、身体を壊さないようにしていただきたい。ここで私はPippoさんの朗読CD、友人は内田百聞のあまり見ないほうの猫の本を購入。
大学時代、古本屋の裏で住んでた友人と一緒だったこともあり、頭の霜も忘れて過ごした京都の一日。最近は会うと仕事の話が多かったが、この日ばかりは学生に戻っていた。友人は私が詩を書いていた時代を知らないので、何のことやら分からなかっただろうが、読書家なのであの本棚に時間を忘れていたようだ。善行さんの奥様ともお話しできたようで、ありがとうございました。

今朝、山本善行さんのブログにてお義母様がお亡くなりになったと知りました。謹んでお悔やみ申しあげます。