食パンは修行の味がする
サンドイッチみたいなお前に俺の心が解るかと
心外なものが
空き瓶から出てきた

横に浮かぶ雪を見ていると靴下を持って
タオルを首に載せて
螺旋の向こうに
歯ブラシのおんなが映る

その目は
円い魚のようで
愁いがあるのか
むしろ嬉しいのか
何も分からない

ご飯前では
考えがつかないから
早く
甘い卵を焼けばいいのに
ひもじいながら食べない不思議

頬に溶けた結晶よ
私にとって世の中は
ことばで塞がれた外にある


『蟹』


きょうはお前が
にんげんにもどった日だから
蟹なんかくうなとは
とてもいえなかった


しゃしゃった姿勢の
職人が
右手横手にあらわれて
常連客がオレンジの灯に
てらされている


堆積した
疲労の籠もる部屋を出て
おまえは
はじめて
新年のかおつきをみる

今日は
すんだ酒に
蟹みそを溶いてやろう


のどからまなこから洗い流すがいい
眉根をひらいて
脱皮のときがきた
肩をなめらかにして