復航

しるしはなかったが
寝顔の真下の
太陽のあたる陸地と
黒い海を眺めていた
ひとりの
背中をおもう


諭されても
足が向かない家路
いきつもどりつ
知らない酒も飲めないから遠く遠く
重なったかげを見ながら
文庫を一冊
置き忘れたことに気を取られて
白い陸地に還り
列車はそのまま
ついてしまったのだ


決意したことは
今になったら分からない
緑地帯の外に
コーヒーは香る
駅舎は今も変わらない
ポケットから手をだして
倒木の肌にふれれば
二枚爪の血がにじむ
なぜとは問わず
再びを求めないまま
生きのびてこれたのだ
僥倖と知るのは
まだ先のようだけれど