2011-01-01から1年間の記事一覧

無題

子どもが鈴生りの 小さなアパートが 楽園だったことは 遠い遠い昔 昭和51年 あの河のそばで 暮らせないと きっと親達は決断 したのだ 山奥に連れて 来られた姉弟の 肩身狭く生きた傷は いくつになっても 癒えはしないけれど 若き日の 親の歳を私たちは 揃っ…

新年度

4年程担当した仕事場を離れる―といっても別に仕事の内容は同じで、階下に移るという具合―にあたって昨日は引き継ぎをした。引き継ぐ方が、超ベテランなので特に心配もなく、こっちも古巣に戻るという立場なので、あまり不安もなく春を迎えることができた。 …

白い花

幼き日 梅は親しいものだった 用水をまたぎ 白い花を探しに行くと 庇の奥でくすぶる弟等も 途端にはしゃぎだすの だった 鳥は どこから春を 抱き取り 翼を替えるのか 裏山で一日中 境目を見つめた 幼い手で残した 淡紅色のカリン ミツマタの黄色 薄紫を見せ…

『国道沿いのファミレス』

畑野智美『国道沿いのファミレス』(集英社)を10日頃に読み終えた。深刻なものを背景に抱え、事件になりかねない人間関係の中で、薄く薄く生き延びていく主人公には妙なリアリティがあると思った。 この本の広告には、女性関係が元で郷里に戻った主人公とあ…

その先に

「逃げられるから別々で」 それきりの別れとなった 父には 息子の命が 大事だった 共に逃れた 母娘 最後に離れた手を思い 母の嘆きは深い 「逃げてくださいと」 危険を告げながら 役場の女性は 津波に流された 最後の声を聞いた母も 今、無事だろうか 東北地…

言葉を失っている

このような時は、先を示す必要な言葉と、要らざる慰めとの差異がはっきりするものだ。ツイートは、RT以外暫く控え、こちらに日々のことを挙げます。Believe http://www.youtube.com/watch?v=IAo9hSR_9v4&sns=em

朝よ

この夜の 一分一秒は長い 生涯初めて聞いた ラジオからの叫び その直後 集落へと 黒い波が押し寄せていた 命 、 命 、 命 、 命 、 命 、 命 … 夜通しの余震に 凍えたすべてを 再び 陽の光が 暖めて くれることを 勇気づける何かが 見つかることを 今 心より…

コーヒーテーブル

ガラス窓ばかり 目立つ席だ 夜更けは 銀髪の一人客が目立つ もう 充分だから レシートの中に 何かあるかと 探さなくったっていい 邪険にしようが 随いてくる 植木だの排ガスに紛れて 弱味というものは 睫毛が美しかろうが なめらかな唇を 開こううが ささい…

春だけど

23歳で当時でいう養護学校(今は特別支援学校)の講師に就職して以来、11年前に転職して以降も、年度末というのは、いつも心休まらない。特に東濃で長らく講師を続けた最後の年、単年度契約とはいえ、3月15日になってから「高校の統廃合があって国語の教員が流…

幼魚のような時を経て 手足がやっと 邪魔にならなくなった もう 重い頭を それほど頼みに しなくとも いいのに 怒声や いちめんの涙を 細かい疑問で 包まずに 軒下でやり過ごす すべはないのだろうか 花が朽ちても いつまでも なぜという人はいない 起きた犬…

佐藤泰志、復活

1949年4月26日。存命であったら62歳。佐藤泰志が自ら生涯を終わらせたのは41歳の10月。未完だった『海炭市叙景』は死の翌年に刊行され、ながらく絶版になっていた。 20年経ち、命日近くに文庫が復刊したのは、驚くべきことだったが、きっかけは昨年3月に遡る…

海辺を歩いて

長い時を経ても心に残る文章がある。子どもの頃、古い『暮らしの手帖』が家にあり、読みやすかったからか「すばらしき日曜日」という一般向けの投稿欄を拾って読んだものだった。様々な人の休日の力の抜けた生活ぶりが、何ともほっとさせる内容だったと思う…

朝の詩

為政者を海に見送り その国の広場では 紙屑が拾われている という 客を迎えられると 青空もひろげられる 別の国では 民衆は警察に囲まれ また次の国で 学生が声をあげたという カーラジオより 解説の声はこぞって その将来を案じるが 老いた国で、くりごとを…

花首

そのかみの 真紅を忘れかね 窶れた唇の母たちは 午後の陽の庭で 篭にころりと集めた実を 蒸して叩き 黄金の油を絞る 子の髪を 梳きながら 落としてきた おごりの春などをおもい エナメルが剥げないまま 年老いて いよいよこれまでかと 削げ落ちる胸に 手を当…

あかり

小さい靴は 生乾きだったから 寝る前に 新聞紙を詰めた 長靴を履きたくない その一心で 雪を含んだ雲が 地を照らしている ふるさとを 美しいとは思えない 時を 誰もが一度は 迎えるのだろう 連山にかかる すばるは 変わり映えしない 時報のようだ けれど な…

初雪 怠けていたことを 後悔する 賭けなかったことを 悲しく思う 追えたかも しれぬことに 今更気がつく それも 時間に余りがあってこそ 行き先を、あきらめた そのことを それが 生きたすべて、ではない と あなたの書いた 一篇が 残された人々の 澄んだ歌…

ニューソング 娘に庇護され 息子を案じ 今や孫と猫に忙しいのだ 賢人といえども 世間を更新せず 人にも 酒にも 電化製品にも のめり込まない そんな 天上のお告げは 枯れた筆の看板くらいに 眺めればいいものを 崇め奉り 引用はつづく 毛布に包まれた苦言な…

『すごい本屋!』に行けなくて

2008年の暮れ、和歌山の山深くにある本屋、イハラハートショップの方の著書『すごい本屋!』に魅せられて、誰彼かまわず、人に読め読め強要し、行く機会もうかがっていたが、和歌山は岐阜からは遠く、なかなか機会は訪れないのだった。先月、たまたま京都に…

田舎の長女

「最近は母のほうが身体がつらいみたいでね、でも、おばあさんを自分でみるっていって無理しとるもんで、おばあさんのぼけにいちいちイライラするんやわ、またおばあさんが、実の娘を「おばあさん、おばあさん」呼んで、おやつを出すと、「わしはいいで、お…

道成寺 念仏を 細首に結わえつけ 揺籃の雪山から出でて 輝く果ての浜 倒れ伏せば 波は砂利を鳴らし 奏楽を耳に運ぶ 波を浴び 風を喰らい 長い髪を離さぬ 皺を忘れた女は 流れ寄るものを 火にくべては 客に膳を出し 子を寝かしつけ 唄で夜を呼ぶ つややかな …