道成寺



念仏を
細首に結わえつけ
揺籃の雪山から出でて
輝く果ての浜
倒れ伏せば
波は砂利を鳴らし
奏楽を耳に運ぶ


波を浴び
風を喰らい
長い髪を離さぬ
皺を忘れた女は
流れ寄るものを
火にくべては
客に膳を出し
子を寝かしつけ
唄で夜を呼ぶ


つややかな
腕に巻かれては
胸に孵る祈り
我が身を放つ
すべを知らず
故郷から持ち出した
言葉しか持たず


塚になったものは
生まれ落ちてからの
悔しき今生
契りなどなかったと
語り残そうにも
今は灰になるばかり


日と月を笠にして
余りの時も
もう
流れつくし
人はつぎつぎに消え
詞だけ痕を残す