『国道沿いのファミレス』

畑野智美『国道沿いのファミレス』(集英社)を10日頃に読み終えた。深刻なものを背景に抱え、事件になりかねない人間関係の中で、薄く薄く生き延びていく主人公には妙なリアリティがあると思った。
この本の広告には、女性関係が元で郷里に戻った主人公とあるが、そんな派手なことは何もなく、ファミレスのHPの書き込み炎上がもとで地元のファミレスに戻ったというのが話の発端である。バーチャルな噂の被害者となった主人公が、策もなく故郷に戻ったせいで、今度は土着的な噂に一喜一憂し、振り回されながらも自分の世界を小さく守っていこうとしている姿に自分が住んできた町、出会った人々がフォルダを開くように思い出された。
目立つ話などはなく、そして登場する人物にも際立った特徴がないのに小説の骨はしっかりしてる印象はどこから来るのか。
 …今日、ブログに感想を書きつごうと、読み返し始めたが…たぶん、11日の震災からの心境が影響しているのだろうか、読み進められなくなってしまった。今、アンテナが抜け落ちたような気持ちでは、噂と現実の絡まりを、丁寧に活写した閉塞感でさえ、平和だった日々の標本のように感じてしまうのだ。
 しかしこれは受け手の問題。畑野智美『国道沿いのファミレス』を、傑作と思ったから財布の中身も考えず、求めたのだった。さっき出てきたロールパンのレシートで、この日の夕食を思い出した。もう10日以上前になるとは。