『鳩よ!』30号昭和61年5月号

『未練』

先刻さようなら言ったのに締括り容易に
きまらぬではこれを無理に封筒
こじ入れ終わります
いつもボールペンの匂いがする人
酒の匂いだよお陽気なこがいう
きね屋のシュークリームたべる人だから
上戸ではない推測する目の前
女の子らは※
小倉パンの差し入れにいそがしい※
小倉豆腐を生活共同組合で手に入れ※
百人一首に身をこがし
また小倉パンの差し入れに彼女達は夢中になる
わたしはその名字から卒業した
そんなつもりで
饅頭をたべている


※女のこ、小倉に傍点あり
『詩・初恋』をテーマとして和泉如子さんと競作になっています。和泉さんは広島県三次市の方。当時『鳩よ!』で奥寺佐渡子さんに続き、注目をされている新進詩人でした。一度だけ電話でお話をした時、早稲田大学に進まれるとお聞きしました。こちらはまだ進学のことを考える時期ではなかったのか、ずいぶん年上に思った記憶がありますが、年譜を見たら1969年とアポロ月面着陸生まれ。私と同じではありませんか。石関さんが編集長を終えられて、その後の「鳩よ!」は評価の定まった詩人を紹介する雑誌になってしまい、和泉さんの消息も分からなくなってしまいました。その後、詩集を編まれたりしたのでしょうか?先の電話の時に、大胆な表現を求められることに戸惑うというお話を聞いたおぼえもありますが、今、思えば和泉さんの作品は、「エロ可愛い」のさきがけだったんじゃないかと思います。
ふくらみをなめたい
なんて 舌の先のかんかく16になって
15という これを かく

あたしの
あたしの
あたしのじゃない あたしじゃない あたしのぶぶん
「死んだっていいよ」※
中原中也「妹よ」

もぉしんだっていいよぉ

『15』より一部引用です。読んでいくと、これはどうやら清志郎へのオマージュのようですね。「いけないルージュマジック」の時代でしょうか。

『未練』の中で、きね屋のシュークリームとありますが、今でも美味しい「街の味」として残っているそうです。郡上市にお寄りの際はぜひご賞味ください。(知り合いでもなんでもありませんが)ついでに・・大乃国さんのスイーツ本に、郡上市の中庄と私の勤務先の近くのフランボワーズ(どちらも洋菓子店)が紹介されており、大乃国さんって現代の甘味フィールドワーカーだなぁと知りました。また「適当にコンビニで買った」という親方愛用レシピ本の中に、オレンジページガゼットから生まれた名著があり、大乃国すごい!と思いました。
是非、収録店と親方のスイーツへの思い入れを増量されて、いずれ文庫化して頂きたいものです。


しかし、16の私よ、小倉豆腐ってなにぃ?字引き(笑)にのっとらへんよぉ!