ちいさな布巾で
磨きあげてきた
ものに
惜別はあるだろう
しかし
元の生活というのは
雨ざらしのベンチのように
端から朽ちかかっている
穏やかではないことに
も目を向けて
飲み込まれないために
噛みしめて
坂を辿るには
蔓のように絡まりあう
くらしと
あまたの時が必要なのだ
乾いた実のような
気持ちも
分けあわねば
生きていかれない
百歳を越えて
息子のために
楽しんで
包丁を研ぐ
父もいるそうだ
生きのびて
それからまた
古い香りの世界に
還っていく日が
きたらいい
自ら磨いた
来しかたは、
莢の中に
大事に
とっておこう