南斗六星



祖父の肩に
耳をつけ
その眼は
もう眠りにおちる



あの背に肉があった頃
ランニングをひっぱっては滑り落ちて
ころころ笑う
四歳児だったろうか



バーベキューをするのに
老いた家には
なにもないはずなのだが
夕べには
火が焚かれ
バナナピーマンが裂かれ
ウインナーも盛られ
肉は黒焦げ
気紛れなおばは
花火セットを出して
いまもなお
叱られる



愛されたことは
忘れてしまうが
手に握りしめた
銅貨のような記憶は
いつか
晩夏に
呼び起こされる



20年余
人の中に過ぎた
持たないことを
選んだのは
しかたのないことか
誰かは誰かの
犠牲になり易いのだから



星は遠い、が



この命は
増えも減りもしない
一喜一憂しなくとも
このまま
後悔もしながら
生きていけばいいのだ