2004.3.19


君の父は
家族のために生きた
君は人のために生きている


行き違いに追われる夜もあるが
あの
静かな背中を君も持つ



夜の東名を飛ばし
枕頭についた日を覚えている
最後の顔には
笑みがあり
低い語らいを
安らぎに導いていた



そして
この七年の日々
君を求める子らとの日々に泣く暇(いとま)などおそらくない



母と父を見送り
家族の糧を分け終えて
善き父は山を分けいり、好奇心のおもむくまま
水車小屋を探しておられる頃か
再会の時は
そんなにすぐではないが



君よ
父上の形見を履いて
その地にいつか行くこともあるだろうか
低い調べを聞きながら
なにかが見えた
草地の向こうへ


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