悪態


この
背中を見ながら
死を
考えている人もいる


たとえば
おいつめる何かがあって
煩悩の頸を
絞めたくなったとしても
あんたが
いなくなったって
きりがないのだ


執着を手放すために
この世から消えても
ささやかな形見ごと
かたづけられてしまう


ああ
届け言葉よ
この横断歩道から
このホームから
この窓の向こうへ


もう
隙間に落ちたように
死なないでほしい

悪態と
愚痴を百万遍吐きながら
泣きわめいて
この地獄を見聞して
その時を待とう


背を見つめる人よ


詩集『二月十四日』より


 32753人の、自らの命を終わらせた人達がいるという。この隣の隣のどこかで靴を履き、新聞をたたみ、傘をさしたり、缶コーヒーで手をあたためていたかもしれないその存在。死に至る事情はいろいろだろう。自分の歳月を振り返ってもこれからと燃えていたあの人が…と驚くこともあったし、長らく音信不通だったことも省みず、自分はあの時何かできなかったのかと虚しい追悼をすることもあった。
 3月は自殺者が増えるという。どこかの会議室では対策のために誰かの眉根に皺がよせられ、その対価が対策費として費やされるのだろうか。
 自身で、辛苦の解消の選択肢に死を選ぶことはなかったが、危険を渡りたがる遺伝子が備わっているのか、死に近づいたことが二度ある。別にたいしたドラマはなく、溺れかけたとかその類いだが、死なずに、こうやって愚痴をこぼして生きているのは、差し出された血の通う人間の手があったからだ。その腕が抱きとめて呼び戻してくれた。
 偉そうなことは何も言いたくないが、わずらわしくたって、言ったって同じことだって思ったとしても、人が他者に適切にお節介ができるのは、一生のうち、そんなに長い期間はない。たまには付近の人にくだらない形で親愛を示すことのほうが、「ダメ」とかいうポスターを道端に貼るよりも必要なことなのだろう。

蛇足ながら、もうすぐホワイトデーなので、わたしどもオバサンはいつも標準装備なんだけど、3月14日ばかりは、老いも若きも飴ちゃんやキャラメルを忍ばせて、会った人にあげてみたらいかがだろう。詰め物がとれたら困るけど。私はねぎキャラメルを見つけました。岐南町
 しかし…バレンタインデーは腱鞘炎になるくらい、勤務先が受けている仕事の商品パッケージの紐通しがあったのに、ホワイトデー前というのに何にもないんだよなぁ。作られた記念日は好きじゃないけど、同じような記念日なのに、それにまつわる仕事がないというのは心外だ。これ、昨今の節分の寿司みたいに、地道に何か構築したらいいのでは?お返しじゃなく告白の日にして、これ!というものが決まればもっと内職が増えるのに(それか!)しかし誰なのやら…キャンディーとかマシュマロなど、苦し紛れにすすめただろう奴!今でこそ美味しくなったけど、昔のマシュマロというものは、私には、なんか飲み込みづらいものだった…

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