枝元なほみの料理がピッとうまくなる』枝元なほみちくま文庫

かつて、谷川俊太郎も愛読したという『なに食べた』(伊藤比呂美との共著)という往復書簡の著作者でもある枝元なほみさんは、実際的な社会活動家でもある。いつの岐阜県農業フェスティバルだったか、里芋を使ったお焼きを作っておられるのを見たことがあるが、ロックな編み上げブーツを穿いたきれいな声の方だった。親本から八年経っての刊行とあって、それからの社会活動はより深化している。ビッグイシューから料理本発刊、むかごの普及、子どもとの料理活動など、(文庫版のために)の章は盛りだくさんだ。親本と変わらぬ題で装丁もあまり変わっていないので、料理好きな女性しか手に取りそうなのが、本当に勿体ない。 枝元さんと親交のある伊藤比呂美さんの解説も強烈な青春を送った枝元さんを語って、鮮やかなエッセイになっている。私がかつてうなったのは、第二章の、「13年暮らした男とは別れ、生活の中心だった劇団が解散し、新しいボーイフレンドは国に帰ってしまい、身分は居候。で、三十二。」から始まる項。そのケレンのない正直さにびっくりしたと同時に三十の私も、人との別れと失業に同時に襲われ、もがいている最中だった2001年。うわー傷は癒えたとはいえ時の経つのは早かった。おっと、もちろん紹介メニューも実用的です。チーズ白玉、最高!『なに食べた?』と併せて読むのがおすすめだけれど、こちらの文庫化はもうされたんだろうか。
伊藤比呂美さんの「居場所がない!」「またたび」も、併せて読むと味わいもひとしおです。