ダークフルーツケーキ
夜寒のステンレスボウル
に
蛍光灯は似つかわしい
関東州から世を渡り
父はジャワへ母は芦屋へ後の世にはつけもの石となる係累を持ち
父は
しらず
嗜眠のくせがついた
泡立ての音も
鼾にまぎれる
ねむりの間に間に
炭を焼き
人を教え
農夫を全うする
日用の糧になやみ
こころを空気に放てず
半割れのレモンの甘煮を棒に切り
ラムにつけた
母のケーキ
攪拌はよかった
膨らんで
裂け目は
湯気をたてる
昭和から
焼いているが
たいてい
隣人の口にしか
はいらない
重たい甘みで
胸がつまるせいだ