夏に会った文人(二)

くちなしや おうなのおよび ほのじろき


大学三年になって、近代文学のゼミに入ると同時に「天狼」に自動的に加入することになりました。句作には消極的だった私。覚えてるものは「夏草を蹴り飛ばしつつ野を行けり」というヤケクソ詠と上記の二首のみです。
そんな俳句音痴の私が、夏の六甲であった「天狼」の句会に出かけたのは、あこがれの神戸に行けるってことが大きかったのでしょう。恩師が参加費の一万円を出してくれたのがありがたかった。
六甲の山に会場のホテルがあったので、ケーブルカーですがれたアジサイの中を昇っていく間、ヒグラシが地から湧くように鳴いていたのを思い出します。
汗みずくでたどりつき、恩師が来るまで会費が払えないという格好悪い状況なのに、二十歳ちょぼちょぼの人間のやることは・・誰もいない大浴場でひとねむり。なぜか哀調を帯びたハワイアンがかかっていたなぁ。
さて、「天狼」といえば山口誓子。小柄で白髪の前髪を切り揃えたヘアスタイルが印象的な物静かな方でしたが、句の披露で自分の句が読まれると、「シェイシー!」と大音声で名乗られるのです。他の人がサラッとあるいはくぐもって名乗りをするので余計印象に残っています。
真似して名乗りたかったのですが、撰に入るわけもなく、もっぱら会の後のビール摂取に専心した結果、山口誓子の横でスナップを取ってもらったのに、あらぬ方を向いて赤目という結果に。
当時、Hさんという人が同じゼミにおり、大腿骨壊死で入院していたので神戸で買った誓子の句集を差し入れたところ「私は俳句が本当は嫌いなんだよね」とあっさり言われ、熱心に作句してた人だけに非常に意外で驚いたというおまけの記憶もあります。 苦学して、遅れながらも卒業を果たしたその人は、新聞記事に載って、実は私達と十以上年が離れていたと後から知りました。句作にかける気持ちが、何か違うところにあったのだろうということが今なら分かります。

俯けばジョッキに
のこる悔悟かな