今も彼は描き続ける

小さな福祉作業所にいた時に、関係団体のコンクールに、年三回くらい利用者の皆さんの絵を出品していた。年輩の方などは、絵など何十年も描いたことがないという方がざらだったが、ここで、描いたことがないから描けないということは、ほんとうのところははないのだなということを体験として知った。学齢期に絵の教育を受けず、長く工場で働き、作業所に来て初めて描いた一枚がコンクールに入選、全国で販売するカレンダーに取り上げられたという方が、七年の間に三人おられた。よその施設のように講師に絵画の支援に来ていただけるようなこともなく、絵を描く時間も長くとれないのが現状で「何かされてるんですか」とよく聞かれたが、皆さんの力だと言うしかなかった。写真のサルビアを描いた方は作業所を移られてからも、未だに毎年何かで入賞されているが、8年前は、絵というとサイコロや信号機しか描かなかった。ある時に玉虫を描いたことをきっかけで、それから毎週毎週何かしら絵を描いている。別に発表のためではなく。入居されている部屋には絵が積み上げられ、それが困るらしく、最近は人に絵をあげているのでびっくりしてしまう。 たいていの人が「絵が好きなんやね」とこの方に言うのだが、今はめんどくさくなったのか「好きやね」と言うけれど、別に好きとか嫌いの次元じゃなくとにかく描いている。ほんとにどんどん描いている。全く評価する人がいなくても、描く人ってそういうものなんだと、この方は見せてくれた。