鈴木しづ子

職場には、たまに泊まり勤務があり、今日は寝が足りない。障がいを持つ利用者と日中は様々な仕事に取り組む。私の日常背景には結束機の轟音と台車の響きが欠かせない。今日は中国から来た書道バッグ30個入りの箱を検品するため作業場と倉庫を往復したが、30個入りは重すぎる。先週までは20個入りだったのに。彼の国の身体能力からすれば30個にしたほうが合理的なのかもしれないが、これ以上のものは無理だ。作業場ではサンリオのキャンディ袋に紐をこつこつと通す利用者達。業者のおじいさんに、箱詰めの不備を指摘され、どうもすいませんと寝不足の顔がこわばる。


時差出勤ホームの上の朝の月


鈴木しづ子という俳人を私は今日初めて知った。
岐阜で消息を絶ち、生死不明。生きていれば九十になるという。昭和二十年代に性をあざやかによみ、代表作は「夏みかん酸っぱし いまさら純潔など」「コスモスなどやさしく吹けば死ねないよ」などがある。

鈴木しづ子の句は寝不足のぼんやりしたような、しかし、ひととこに視線が凝っているような今の状況に変にあう。

花吹雪岐阜へ来て棲むからだかな

上記は『夏みかん酸っぱしいまさら純潔など 句集「春雷」「指輪」鈴木しづ子』河出書房新社から。


ネーブル汁したたらす悔悟かな
KAWADE道の手帖鈴木しづ子』河出書房新社
この頃作った自分の俳句とは、悔悟の使い方が違う・・
しづ子さんは本も果物もお好きだったとみえ、自転車で本屋をめぐるような溌剌とした作もあり古本を抱えて驟雨に駆け出す句もある。太宰が好きという句もあったようだ。消息が分からなくなるほど平安な日々が訪れたにちがいないといのりのように思わずにはいられない。